＃５　知ったかぶりはダサいですわよ？

「お父様は禍神を知っていたんですわね。」

『禍神というのは……なんだ？』

　え？知らなかったんですの？

「え？さっきの反応は禍神について何か知ってる人の反応でしたのに！」

『そんなもの俺が知るわけなかろう。俺にも分かるように禍神について説明してくれ！』

　えぇ……よくわかってないのにとりあえずそれっぽい反応しただけなんですの？ほんとにこのオヤジは……。上がりかけた評価が急降下ですわね。

「分かりました。この件に関してわたくしがしっかりと説明いたしますわ。ですがこの件は他言無用でお願いいたしますわ！それを了承いただけないならわたくしも無用な混乱を避けるためにこの場では黙秘いたします。」

『もちろんだ。俺の口はそんなに軽くないぞ。』

　急に嘘臭いですわね。わたくしの中では気の強い女性に詰められたらすぐ情報ゲロるイメージでしたのに。

「お母様に詰められたらあっさり話そうですのに意外ですわね。」

『…………お、俺の口は固いからな、問題ない。』

　この間は絶対嘘じゃないですか。

「本当にそうなら露骨に目を逸らすのをやめていただけません？」

『…………う、うむ。』

　ダメだこりゃですわ。

「秘密にして頂きたいのにも理由があるんです！そこはちゃんと約束していただかないと話せませんわ！」

『分かった。分かったから……』

　これはお母様に言うやつですわね。まぁこれだけ繰り返し言っておけば時間稼ぎくらいにはなりますわよね。お母様がこのことを知る時期が少しでも遅くなればいいんですけれど。

「もういいですわ。いつかはお母様にも言わなければいけないことですし。わたくしとこの領地にいずれ降りかかる災厄。そして私の誓いについて……」

『災厄？誓い？おいおい突然何を─────』

　当然の反応ですわね。

「わたくしアビゲイル=ルミナリアは、未来で死にましたわ。」

『おいおいアビー、さすがに死ぬだなんてそんな不謹慎なジョークはお前らしくないぞ？』

「お父様、これは残念ながら冗談ではありませんわ。」

『本当なん……だな？』

「えぇ、本当ですわ。わたくしははっきりと覚えております。最期の力を振り絞った龍にしっぽで吹き飛ばされて折れた助骨が内蔵に刺さって死んだあの日を。」

『さっきの動きを見る限り未来のお前が負けるなんて想像出来ないな。』

「死んでから必死に強さを求めましたもの。それでも22歳で死んだ時のわたくし、剣姫アビゲイル=ルミナリアの方が今のわたくしより強いですわ。」

『剣姫……か。それならば大抵の魔物には負けないだろう？そんなお前が負けて死ぬなんて龍ってのはどんだけ化け物じみた存在なんだ。』

「龍と相打ちですわ。わたくしは負けてなどいませんわり。それに、ルミナリア領に向かって進んでいた魔物の群れを止めるべく動いて疲弊しきってから龍と遭遇しての相打ちですし実質わたくしの勝ちですわね。まぁ最後はしっぽを避けきれずに死にましたけれど。」

　あれはほんとに悔しかったですし、近いうちにリベンジしに行きたいですわね。

『龍と相打ちか……俺の実力じゃ想像も出来ないな。』

「そうなりますよね。まぁ、だからこそわたくしが一人で対処せざるをえなかったんですけれど。だから強くなってください、お父様。いついかなる時もイレギュラーは起こりうるのですわ！このままだとお父様、死にますよ？」

『クッ…………』

「わたくしにはやるべき事がありますわ。だからこそ留守をお父様たちに任せたいのですけれど、可能かしら？」

『ふっ、娘にここまで言われちゃ無理とは言えねぇな！おう！やってやんよ！もっと強くなって父親の威厳ってもんを見せつけてやんよ。』

　それでこそお父様ですわね。書類仕事で忘れられていた向上心を思い出してくださり何よりですわ。

「そういえば元々は禍神の話でしたわね。禍神というのはその名の災禍を齎す神の如き力を持つ怪物のことですわ。現在確認されている禍神は三体。それぞれ鳥、蛇、狼の姿をしておりますの。その三体こそが古代の文明を破壊した張本人なのですわ！」